
著者の数学や数学者への理解があってこそ成し遂げられた作品なのかな,と思う.
数理解析研究所がどんな想いで設立に至ったのか,その背景が最初の章で描写されていて,その後,各章で,数理研を代表する何人かの逸話が記載されている.
印象に残る部分が多々あった.
「朝起きた時に,きょうも1日数学をやるぞと思ってるようでは,とてもものにならない.数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない.どの位,数学に浸かっているかが,勝負の分かれ目だ.数学は自分の命を削ってやるようなものなのだ」
佐藤幹夫の言葉だ.
自分が研究職を諦めた理由のひとつは,一生数学をしていくんだ,という決意を抱けなかったことにある.
特に,伊藤清に関する章は,金融機関に籍を置く数学出身の人間として,真摯に受け止めなければいけない警告を含んでいたように思う.
「私は……,ここで『経済戦争』にも反対したいことを付け加えたいと思います……『経済』の一部である『金融』から,更に派生したに過ぎない商品や,そのディーラーの名のもとに行われる戦争を一刻もはやく終わらせて,有為の若者たちを故郷の数学教室に帰していただきたいと思うのは妄想でしょうか」
数学に少なからず関心を寄せている人なら,読んで損はないんじゃないかと思う.
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