2014年12月30日火曜日

『実験的経験』森博嗣

タイトルのとおり、実験をしている小説だ。面白いかと聞かれれば、面白くないと断言してしまうけれど、読む価値がないかと言えば、決してそんなことはない。存在意義のある作品だと思う。

感想という感想は特にない。というか、明文化しにくい。感じることはあるんだけどなぁ・・・という感じ。

一言だけ言うなら、森博嗣の挑戦意欲がすばらしい、というところだろうか。

『つぼやきのテリーヌ』森博嗣

納得できる考えがたくさんあった。
中には、少しだけ、受け入れるのに抵抗のある考え方もあった。
ただ、総じて、割と森博嗣と考え方が似てるかも、と感じた一冊だった。
一方で、発想は全然違う気もする。

100個のエッセィから成るエッセィ集なんだけど、なんとなくで付箋を付けた箇所が10ヶ所くらいある。備忘録として番号だけ記載しておこう。

38 51 53 57 59 63 67 71 90 96 97 

ちなみに、上記の57については、馬券で儲けた場合は税金がかかるけれど、宝くじは非課税になってる。理由は、本編で森博嗣が言及しているとおり、購入代金のうちのいくらかが収益金として団体に入っているから、購入時点で税金を払っていることになるため。

90に関しては、ぜひ一度、多くの人に読んでもらいたいって感じたエッセィだった。
安易に他者の写真などをツイッタなどで公開していると、犯罪になるという話だ。誰も気づいていないと感じるかもしれないけれど、「実は知られている。知った側も、面倒だから、小さいことだから、と放置しているだけだ。許しているわけではない。しだいに関しは強まるだろう。これはちょっと許せない、という一線を越えたときに、一気にあなたを潰しにかかってくる」という話だった(「」内は作品から抜粋)。
意外に、自分がやっていることの問題に気づいていない人って多いと思う。

『木嶋先生の静かな世界』森博嗣

森博嗣の、研究者としての理想像が描かれてるのかな、という感じがする。自伝的小説だと評価されてるけど、それよりは、自分がなりたかった存在を描いてるように思う。

いずれにせよ、こういう作品を書いてくれる作家がいることが嬉しい。

橋場君が感じていること、木嶋先生が発言したこと、色々なことが、今の自分にはストンと落ちる言葉ばかりで、中には、こういうタイプの先生いたなぁと思うような描写があったりして、読んでて楽しかった。

2014年12月29日月曜日

『レ・ミゼラブル』ヴィクトル・ユゴー

今年の1月から読み始めた。

外出しているときは、Kindleやスマホで読んで、家では紙の本を開いて。

9月くらいに、年内に読み終わらない感じがしたからペースアップして、昨日、ようやく読み終わった。

岩波の全4冊セット、箱入りで、保管に便利だ。ちょっとだけ格好良い。
Kindle版と比べると、だいぶ高いけど、こっちも買って良かったって思う。

物語として見ると、価値があると思えたのは最後の3編くらいだけだ。そこに至るまでの描写は、確かに必要ではあるんだろうけど、冗長すぎてイライラした。
ただ、歴史的な描写がたくさん入ってるから、そういう部分のおかげで本全体の評価が高くなってるのかなぁと感じる。あとは、宗教的観点からの評価が高いんだと思う。

この本に描かれてるすべてを理解できたとは到底思えないけれど、一度読んでおいたことは意味があることだと思う。

またいつか、読み返してみたい。

2014年12月21日日曜日

『名探偵コナン 85』青山剛昌

緋色シリーズが収録されている今巻。
57, 58巻に収録されている話を伏線とした作品になってるんだけど、そんな過去の話を持ち出してくるとは思わなかった。

もともと、これだけの期間を空けようと思ってたのか、それとも、ネタ切れだからそろそろ描こうと思ったのか、そのあたりは良く分からないけど、少なくとも、当時からきちんとこういういう話を描こうと考えていたっていうあたりが、さすがプロだなぁと思った。

工藤優作と赤井秀一、個人的に好きな2人の共演っていうことで、結構面白く読めた。

そして、今巻にも出てくる太閤名人。
棋士としてのスマートさと、普段のキャラクターとのギャップが面白くて良いなぁと思う。

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』和月伸宏

初めて『るろうに剣心』を読んだのはいつだっただろう・・・
最終巻が出たのは1999年らしいけれど、たぶん、きちんと読んだのは中学生の頃なんじゃないかと思う。つまり2001年から2004年の間。
今回、かれこれ10年以上ぶりに全巻通してKindleで読んでみた。

1巻と、最終28巻だと絵が結構違うなぁ、という話は置いておいて、久しぶりに読んでも面白かった。

剣心の決意というか信念というか、今の自分とほとんど年齢が違わないのに、その生き様、凄いなぁと思った。
たぶん、幕末から明治維新という、歴史的に見ても大きな変化があった時代を生き抜いた人たちだからこそ、きちんとした決意を持って生きていくことが出来たんだろうなぁと思う。

小さな頃に触れたものって、大人になって忘れていくものもあれば、経験が少ない、積み重ねてきたものが少ない時に触れたからこそ印象に残っているものもある。
この作品は、どちらかっていうと後者の方だ。
また、いつか読みたいなぁと思う。

2014年12月18日木曜日

『明智警部の事件簿 1』天樹征丸,さとうふみや,佐藤友生

『金田一少年の事件簿』の公式スピンオフ作品、『明智警部の事件簿』。

どこまで関与してるのかは分からないけど、原作として天樹征丸とさとうふみやが名を連ねてる。つまり公認っていうことだ。

『金田一少年の事件簿』シリーズでは、警視としての明智さん、ロス市警時代の明智さん、少年時代の明智さんは描かれているけれど、警部時代は描かれていない。
ということで、まだ見ぬ過去が明かされるのではないかと、そんな感じの作品。

パッと見、(絵的な意味で)どうなんだろうなぁという疑念が強かったんだけど、読んでみて、いやはや、なかなかどうして面白い。多少少女漫画タッチな感じはするけれど(偏見)、読みやすいし、作品として面白い。
明智さんが怒る場面、初めて見た。全然表情を歪めずに、でも眉間にしわを寄せて怒るその感じ、嫌いじゃない。

今後が楽しみな作品だ。

『金田一少年の事件簿R 4』天樹征丸,さとうふみや

『金田一少年の事件簿R』の4巻。
今巻は、全巻から続く『狐火流し殺人事件』の解決編までが収録されている。

昔から、金田一少年の良いところは、トリックを見抜くための材料がすべて描かれてるところだと思う。コナンとかだと、この辺がきちんとされてなかったりする。
まぁ、同じ推理漫画とはいえ、ジャンルが違う感じだから一概に比較は出来ないけれど。

『狐火流し殺人事件』の犯人が殺人を実行する動機となる出来事が、非常に悲しいストーリーで印象に残った。

2014年12月15日月曜日

『SHORT GAME』あだち充

あだち充の短篇集、『SHORT GAME』。

割とラブストーリー色が強いけど、あだち充の作品がどれもこれも恋愛を絡めたものであることを考えれば、まぁ、短編になって、その要素が際立っただけなのかなぁと。

一応作品が掲載されてた雑誌名とかは出てるけど、それぞれの作品がどの雑誌にいつ載ってたのか、みたいなことは全然書かれてないから、厳密にはいつ描かれたものなのかは良く分からないけど、ほとんどの作品は、ここ数年内に描かれたものらしい。

こういう短編、私は好きだ。

『MIX 6』あだち充

あだち充の漫画は、さりげない描写が多くて好きだ。
単純な絵なのに、あれだけ機微を描けるのはすごいと常々思ってる。

この『MIX』、『タッチ』の舞台だった明晴学園が舞台で、『タッチ』と同じく双子が主人公。一卵性じゃなくて二卵性みたいだけど。

まだまだ何かをコメント出来るような感じじゃないけど、とりあえず今後の展開に注目、という感じだ。

『探偵の探偵2』松岡圭祐

松岡圭祐の新シリーズの2作目。

ネットワークを遮断してラインのメッセージを閲覧したら、その後ネットワークを復帰させても既読にはならない、
だとか、
数字回転式鍵付きのポストの開け方とか、
開封済の状態のドコモのメールを未開封に戻す方法とか、
色々と勉強になった。

ストーリーも非常に面白い。
痛々しい描写もたくさんあったけど、でも、今までの松岡圭祐のシリーズと比べて、普通の女の子が頑張ってる、っていう感じが非常に魅力的だと思う。

最後には死神の名前が判明して、今後、どうなっていくのかが気になった。このスピードなら、すぐに死神と対決、という感じもするけれど、そしたらシリーズの完結が目前、という感じだし。
明確な目的を持った主人公、というのも松岡圭祐の作品としては初めてのような気がする。

嘘をつくことに対して重く感じていないという玲奈。でも、なんとなく想像してたとおり、最後には授業参観に訪れたところが良かった。

まだ2作目だけど、準レギュラー的立ち位置のキャラクターをあっさりと殺したりしてることが気になった。
死なないことが約束されてる登場人物が戦いに巻き込まれても、ある種の安心感があってつまらない。死ぬかもしれない、っていうことを読者に伝えるためには、こういう展開は大切だ。

ただ、気になるのは、琴葉と、彼女のお姉さんとの関係だ。
さすがにこのままだと、救いがなさすぎる。

2014年12月11日木曜日

『零崎人識の人間関係 戯言遣いとの関係』西尾維新

戯言遣いとの関係と言いながら、戯言遣いはほとんどと言っていいほど登場しない上に、零崎人識と会話を交わしている描写は1つもなかった。挙句の果てに、無関係。

西尾維新らしいと言えば西尾維新らしいのかなぁ。

しかし、戯言遣いが零崎人識といかに似ているのかと同時に、いかに世間ずれしているのかがよく分かった。


以下、どうでも良い覚書。

「彼らは最弱と言っていいほどに弱く、逸脱せず、成長せず、変化せず、仮に逸脱し、たとえ成長し、いやしくも変化したところで、そんなものはすぐに元に戻り、反省も後悔もその場しのぎで、とても簡単に徒党を組み、そうかと思うと簡単に裏切り、何が起きても何事もなかったことにし、すぐに忘れ、とっさに意見を翻し、信条を持たず、怯えては逃げ、狂い、非常に適当で、約束を守らず、ルールを無視し、高いばかりのプライドを簡単に捨て、努力もなしで成果を求める、欲深の、しかし慈悲深い、善良でありながら悪逆で、感情移入とそれに伴う飽きを矛盾なく実現する、深く考え過ぎる割には何も考えておらず、行動力がない割には結果だけは出す、感情的な癖に中途半端に頭のいい、愛すべき群体としての個体。
 ありったけの敬意となけなしの軽蔑を込めて――人は彼らを『一般人』と呼ぶ。」

一般人についての考察としては、取り上げる価値がないかも知れないけれど、でも、非常に面白い考察であることは間違いない。

「変わりたいと思う気持ちは、自殺だよね」

きつい言葉だなぁと思う。

「人間が人間を変えたり出来るかよ。」

同感だ。
人は、変わろうとするから変わるのであって、強制的に変えさせられるなんてことはありえない。

『零崎人識の人間関係 零崎双識との関係』西尾維新

零崎双識との関係――兄弟関係。

なるほど。

家族のために、果たして危険を冒せるだろうかと、そんなことを考えた。

匂宮出夢について、今でも好きだと語る零崎人識の心中は、正直なところ私には良く解らない。ただ、そういうふうに思える相手がいるっていうのは、良いなぁと思った。

とりあえず、面白い一作だった。

2014年12月9日火曜日

『零崎人識の人間関係 無桐伊織との関係』西尾維新

零崎人識と無桐伊織との関係を描いている今作。

零崎人識の死生観に共感した。

「誤解してんじゃねーだろ―な、伊織ちゃん――人は死ぬぜ、簡単に。生きてる奴が死ぬのは当たり前のことだ。」

きちんと、人が死ぬっていうことを意識しながら生きてる人は、たぶん生きにくいかもしれないけど、強いと思う。かくいう私も、割と生き死にの議論は好きだ。死に方は常に考えながら生きている。

哀川潤が言っていた。

「理不尽に生まれて意味不明に死んでいく」のが人間らしい。でも、どうせなら、死ぬことにくらい、意味を付加させたいなぁと思う。

家族を重んじる零崎一族。殺人鬼集団だけど、良いなぁと思った。
私自身は、家族を尊重したいって思ってるけど、少なくとも、選択できなかった方の家族、自分を産んでくれた親と、親を同じくする兄弟とは、残念ながら価値観が違いすぎて、それほどしっかりとした家族関係を結べなかったようにも思う。
自分で家族を作るときには、お互いに尊重し合える、価値を認め合える、そんな家族を作りたいなって思う。

零崎人識と無桐伊織との関係、素敵だ。

2014年12月7日日曜日

『零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係』西尾維新

第零章にあるように、

「これは、ひょっとしたら実ったかもしれない、小さな恋の物語だ。」

たぶん、253ページで、匂宮出夢の

「お前、僕のこと、好きか?」

という問いに対して、零崎人識が、一言、

「好きだ」

と言えば、あの悲劇は起こらなかったんだろうと考えると、悔しさが募る。
あの一言が、出夢と人識の関係を破綻させてしまった。
もちろん、未来の人類最悪と出会った時点で関係の破綻は避けられなかったと見る向きもあるんだろうけれど。

それにしても、人殺し、しかも、世界が四分の一ほどひっくり返るような、そんな途方もない人殺しの依頼の理由が、一冊の本を読みたかったということだとは・・・
理解できなくもないと思ってしまう自分が怖い。
少なくとも、本当に成し遂げたいものがあれば、手段は選ばない気がする。

西尾維新が描こうとしたものは、たった数ページ、ないしは数十ページに収まるものだ。
でも、そこに説得力を持たせるために、200ページ以上を費やしてる。
描きたいものがあって、どれだけそれに説得力を持たせられるかっていう勝負をしているのが小説家なんじゃないかな、と私は勝手に思ってる。

こういう小説に対してこういう評価を下すと有識者から文句を言われそうだけど、この本は、小説の手本として分かりやすいと思う。

2014年12月6日土曜日

『三国志 5』宮城谷昌光

どんどん歴史が大きく動いていく。
呂布は亡くなり、公孫瓚や袁術も死んだ、袁紹も官渡の戦いの後、結核で死んだことが描かれてる。
曹操は、袁紹の死後、その息子である袁尚を討った後、袁紹の墓前で泣いたという。袁紹の別の息子、袁煕の妻であった人物は、のちの明帝を生むという記述で5巻は終わってる。

天下を取ろうという者もいれば、それをサポートする立ち回りを演じる者もいる。どういう視線で世界を見るかによって、動き方は全然違うっていうことが良く分かる1冊だった。

そんな中、後に歴史に大きく名を残す劉備は、ひたすら逃げ回ってる。勝てる勝負はするけれど、負けそうな勝負は側近すら残して逃げる。
関羽は一度、逃げた劉備とはぐれて曹操の配下になったけれど、敵陣の中にいても、劉備への忠心を忘れなかった。こういう動きは、純粋に尊敬する。

孫策の、死んだ振りをして相手を油断させる方法とか、曹操が、戦場に書物を携えていくという話など、面白い話がたくさんあった。

純粋な歴史小説というわけではなく、きちんと時代考証をしながら、実際はどうだったかを確認しながら話が進んでいくから、まどろっこしい反面、面白い部分もある。

2014年12月3日水曜日

『探偵の探偵』松岡圭祐

『探偵の探偵』
松岡圭祐の新作だ。

今までの主人公たちと違って、特別な技術はないけれど、たぶん、一番、自分の行動に対する信念は強いのかな、と思う。

推理小説に出てくるような探偵ではなく、現実に存在するような、調査活動を主とする探偵業者を描いた作品だ。

過去に、探偵のせいで妹を亡くしてしまった紗崎玲奈が、悪徳探偵を相手に大立ち回りを演じるというストーリー。

「探偵業の業務の適正化に関する法律」、通称「探偵業法」。
こんな法律が現実にあるなんて、小説を読んで初めて知った。
世の中は、探偵を求めてるっていうことなのかなぁ・・・

この小説を読んで学んだことは、
「確証バイアスには気をつけろ」
ということと、
「真実を知るのはいつでも自己責任でしかない」
ということ。
どういう文脈で出てきた話なのかは、本編を御覧ください。

松岡圭祐の他の著作と同じく、やはり、それなりに軽い。重厚感漂う作品ではないけれど、それでも、娯楽小説として文句なしに面白いと思う。
おすすめです。